キモチの欠片
香苗先輩は料理上手。
彼氏はガッチリ胃袋を掴まれたみたいだ。
やっぱり、料理の出来る女の人はいいよね。
そういえばこの間、シフォンケーキを作ったからとお裾分けしてくれた。
一応、あたしも料理は人並みには出来るんだけどね。
「そうなんですね。ちなみに今日のメニューはなんですか?」
「今日はロールキャベツかな。晃くんの大好物だから」
晩ご飯の話をしながらエントランスを抜け会社を出ると、少し離れたガードレールのそばの木の下に葵が立っていた。
もう、何で見付けてしまうかな、あたしの目は。
思わず歩くスピードが遅くなる。
幸いな事に葵は俯いていて、まだこっちには気付いていない。
っていうか、あたしは自意識過剰のバカなのか?
葵はあたしを待ってる訳じゃないのに。
そうだよ、きっとそう。
スピードを緩めてる場合じゃない。ここは早く切り抜けなきゃ。
あたしより背の高い香苗先輩に身を隠すようにして急ぎ足になる。