キモチの欠片


「ねぇ、あそこにいるの羽山くんじゃないの?誰か待ってんのかな」


歩きながら目ざとく葵を見つけた香苗先輩が木の下を指差す。
今は気付いて欲しくなかった。



「さぁ、分かりませんけど。それより香苗先輩、早く行きましょう」


急かすように言って足を速めると、あたしを呼び止める低い声が聞こえた。


「ゆず、待って」


葵だ。

その時、ムワッとした生ぬるい風が吹き木々を揺らし、同時にあたしの心も揺れた。


葵はコツッと一歩踏み出しあたしたちのところへ歩いてきて目の前に立つ。
いつも思うけど、見下ろされると迫力満点だ。


「ゆず、ちょっといいか。話がしたんだ」


やっぱりか……。
朝、葵が昨日の話をしなかったのはどうして?と疑問に思っていた。

あたしの解釈だけど、葵は仕事とプライベートは別だと考えていたからではないのかなと。
だから仕事が終わって話しかけてきたんだろう。

ずっと考え事をして失敗したあたしは社会人としてまだまだ半人前だ。

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