キモチの欠片
「あの、話って……」
「そうだ、私、買い物があるから先に帰るね」
覚悟を決め、その場で話を聞こうとしていたのに香苗先輩があたしの言葉を遮った。
しっかり話をしなさいよ、とあたしの耳元で囁き肩をポンと叩き香苗先輩は帰って行った。
空気の読める先輩だな、と葵が呟いた事は聞かなかった事にしよう。
頑張れあたし、と自分に気合いを入れる。
「えっと、羽山さん話っていうのは?」
「羽山って呼ぶなと言っただろ。前のように葵って呼べよ」
眉間にシワを寄せて言う。
脳内では今まで通り葵と呼んでたけどね。
これであたしがゴチャゴチャ言ったらまた堂々巡りになって長引くことになるのは間違いない。
だったら。
「じゃあ、あ、葵で……」
「あぁ、そうしてくれ」
久々に本人を目の前に名前で呼んだのでなぜか緊張し、ついどもってしまった。
そして、あたしの名前を呼ばれただけで葵が嬉しそうに笑うから調子が狂う。