キモチの欠片
いつも何気なく見ていた、逞しい胸板に頬が当たり葵の腕があたしの身体に回された。
えっ?
あたし、もしかしなくても葵に抱き締められてる?
ドクドクと心臓が異常なぐらい速いスピードで脈打ち、身体中が一気に火照る。
何これ……。
顔を上げるとあたしの視線に気付いた葵は、大丈夫だというように微笑んだ後、ヤスを見据えた。
スーツからふわりと香る香水の匂いに混じり仄かにタバコの匂いがする。
葵ってタバコ吸うんだ、なんて頭の片隅で違うことを考えていた。
「何バカなこと言ってんだよ。そんなのあり得ねぇ。柚音に彼氏がいるなんて信じらんねぇよ」
鼻で笑うようにヤスが言う。
「言ってる意味が分からねぇ」
葵が冷静に言葉を返すと、ヤスはあたしの顔を見てニヤニヤと笑う。
まさか余計なこと言うつもりじゃないでしょうね。
嫌な予感がする。
「こいつはなぁ、特定の男なんて作るヤツじゃねぇよ。そうだろ、柚音」