キモチの欠片
葵の身長は百八十センチはあり、ヤスは百七十センチあるかないか。
その身長差で葵がギリギリとヤスを締め上げる。
「クッ……や、めろよ」
ヤスは苦しそうに顔を歪める。
「今すぐゆずに謝れ。二度とそんな口、叩けないようにしてやろうか」
葵のゾクリと身体が震えるぐらい低く、地を這うような声。
どうしてそこまでしてくれるの?
あたしにはそんなことしてもらえる価値なんてないのに……。
胸が苦しくなり申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
何もできない自分が不甲斐なく、ただ唇を噛みしめる。
「わ、わるか……った。二度と、言わね、ぇ」
ヤスが苦しそうに謝罪の言葉を言うと葵は手を離した。
「もう二度とゆずと俺の前に面見せんな。今すぐ失せろ!」
ヤスはチッと舌打ちし、葵に掴まれてシワになったT-シャツを雑に払い、逃げるように雑踏に紛れていくのをあたしは呆然と見送った。