キモチの欠片

葵……?
どうしてまた抱き締められているのか分からず戸惑っていた。

「俺の前で強がるなよ。涙を我慢しなくていいんだ。今日ぐらいは意地っ張りをやめろ。いつでも俺の胸を貸してやるから素直になれよ」

囁き優しく頭や背中を撫でる。
こんなバカな女に優しくしないでよ、もっと涙が出るじゃん。


「ごめんね、葵。嫌な、思いさせちゃって」

葵のシャツをキュッと掴み腕の中でボソボソと謝る。

あたしのことはなんと言われてもいい。
それは事実だから。

庇ってくれたのは嬉しかったけど葵の思ってくれてるような女なんかじゃないんだよ。

申し訳なさで涙が溢れ落ちる。
涙を流して泣くなんて久しぶりだ。

我ながら汚い泣き方だなとは思ったけど、鼻水を啜りながら何度も「ごめんね」を繰り返し涙した。

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