キモチの欠片

開いた口が塞がらないというのはまさにこのことだ。

「嘘でしょ?葵、もうすぐ二十三だよね。今まで彼女がいたことがないなんてあり得ないよ」

よくもまぁ、ぬけぬけと、どの口が言ってんのよ。
疑いの眼差しで葵を見てしまう。

「嘘なんかついてねぇよ。お前に嘘ついて俺になんのメリットがあるっていうんだよ。マジで彼女はいたことがない。だが、昔から女には困らなかった」

どうだと言わんばかりに葵はニヤリと笑う。
そのどや顔がムカつくんだけど。

「サイテーだね、葵。そんなヤツだとは思わなかった。バカでしょ」

「あのなぁ、それだけはぜってぇお前に言われたくねぇよ。ゆずの方が大バカだろ。今だってあんな男に散々言われてただろうが」

ピンと額を弾かれ、デコピンされた。

「いたっ……」

額を擦りながら確かにそうか、なんて納得してしまう自分がいた。

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