キモチの欠片

なんだろう、このやり取りはすごく懐かしい感じだ。
葵とこんな風にふざけあったりしてるなんて本当に昔に戻ったみたい。

今日は(ヤスに出会うという)嫌なこともあったけど葵と昔のように話せたのは嬉しかった。
この距離感で話せるのが一番楽だ。
やっぱり敬語は使い慣れなくて苦労したしね。

ふと、葵が急に思い出したかのように口を開いた。

「そうだ、お前の連絡先知らないんだけど」

「あ、うん……」

「うん、てなんだよ。これから必要になるだろ。ちょっと携帯出してみな」

そう言ってあたしの携帯を奪い取り赤外線で連絡先を交換した。
あたしのメモリーに“羽山葵”が追加された。


「お腹が空いたな」

辺りも暗くなり星が瞬き出した空を見上げて呟く。
その独り言を聞いた葵がフッと笑って歩き出した。


「和食の美味い店に連れて行ってやるからさっさとついてこいよ」

「待って、置いてかないでよ」

いろんなことを吹っ切るように葵の背中を追いかけた。

今日を境に、あたしの中でなにかが変わった気がした。

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