あたしたち別れましょ。
そんな空気の中、荷造りが終わる。
「荷物積めたし、あたし帰るね」
ずっとベッドの上に座っている正樹の所に近づく。
「正樹…9年もありがとう。
たくさんの思い出をありがとう。
バイバイ」
一礼をすると、ゆっくり玄関に近づく。
「美幸っ」
後ろから強く腕を引かれて、正樹の胸の中に収まる。
そして正樹があたしの背中に腕をまわす。
「正樹…」
「美幸….別れるとか言うなよ」
「ごめん…」
「ごめん…て。聞きたくねぇよ」
この時、今日初めて正樹の言葉に心が揺らいだ。
そして、視界がボヤけた。
「ねぇ、正樹」
「なに?」
「今日久しぶりにあたしの名前を呼んだことに気づいてる?」
「え…」
やっぱり気づいてなかったんだ…。