あたしたち別れましょ。


「2年前ぐらいから、あたしのことなんて呼んでたか気づいてないの?

“ねぇ”とか“お前”とか呼んでたんだよ?

時々気まぐれに美幸って呼んでたんだよ?


9年も付き合ってて、そんなことに悲しんでるなんて馬鹿馬鹿しいかもしれない。
でも、そんなの嫌だったんだよ。

あたしは“美幸”。


“ねぇ”でも“お前”でもない」



ずっと我慢してたことを別れた今更になって言葉にするなんて…。



「美幸…」



「もう終わりだよ」


ゆっくり正樹の腕を離してパンプスを履くと、玄関を開けた。



「正樹…さようなら。元気でね」



笑ってドアを閉めた。


最後に見た正樹は手で顔を隠していた。


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