【完】『潮騒物語』
◎
帰宅すると、和室の襖越しから長唄の声がする。
「ただいま」
三味線の音色が止まった。
「あら、おかえり」
師匠をつとめる祖母の操は、弟子のほうを向いたまま、
「ご飯は台所にあるよ」
「おばあちゃんは?」
「私は済ましたから大丈夫」
とかえした。
「うん」
萌々子はキッチンで手早く夕餉を済ますと、着替えもそこそこに型紙でトランプ柄の生地を裁ちはじめた。
パーツが裁ちあがると次はマチ針で止め、仮縫いをしミシンにかけてゆく。
手慣れた様子で萌々子が縫い合わせてゆくと、次第に一着のロリータ服が、形をあらわしてきた。
そこへ縁にレースをつけ、スカートの下へ、パニエと呼ばれる膨らみを持たせるパーツを組み合わせると完成となる。
「萌々子は裁縫が上手だねえ」
そこへ長唄の稽古を終えた操が来た。
「この器用さは死んだ美奈子さんの血だね」
と操は、萌々子が幼いころ他界した母親の話をした。
「おばあちゃんは?」
「私はいわゆる芸妓さんだったからね、そういうのはからっきし」
とこの祖母は、歯切れのいい口跡でいった。
「あ、もうすぐ誕生日だよね」
萌々子は包装した端切れを出し、
「これで今度、プレゼント作るね」
「ありがと」
萌々子は後片付けをはじめていた。
「ただいま」
三味線の音色が止まった。
「あら、おかえり」
師匠をつとめる祖母の操は、弟子のほうを向いたまま、
「ご飯は台所にあるよ」
「おばあちゃんは?」
「私は済ましたから大丈夫」
とかえした。
「うん」
萌々子はキッチンで手早く夕餉を済ますと、着替えもそこそこに型紙でトランプ柄の生地を裁ちはじめた。
パーツが裁ちあがると次はマチ針で止め、仮縫いをしミシンにかけてゆく。
手慣れた様子で萌々子が縫い合わせてゆくと、次第に一着のロリータ服が、形をあらわしてきた。
そこへ縁にレースをつけ、スカートの下へ、パニエと呼ばれる膨らみを持たせるパーツを組み合わせると完成となる。
「萌々子は裁縫が上手だねえ」
そこへ長唄の稽古を終えた操が来た。
「この器用さは死んだ美奈子さんの血だね」
と操は、萌々子が幼いころ他界した母親の話をした。
「おばあちゃんは?」
「私はいわゆる芸妓さんだったからね、そういうのはからっきし」
とこの祖母は、歯切れのいい口跡でいった。
「あ、もうすぐ誕生日だよね」
萌々子は包装した端切れを出し、
「これで今度、プレゼント作るね」
「ありがと」
萌々子は後片付けをはじめていた。