【完】『潮騒物語』
住所でいうと七里ヶ浜にあった萌々子の家へ着くと、彼女は、
「あ、チョコあげる」
と慶に、駿太郎に渡すはずであった紙袋を渡した。
「これ…彼氏さんにあげるもんとちゃうんかい」
「お慶さん、チョコ嫌い?」
「苦手ではないけど、甘いものは…」
「…だったら」
少し入ろう、と萌々子は数寄屋造りの自宅へ慶をいざなった。
「ただいま」
「早かったね…あら、お慶ちゃん」
祖母の操は驚いた。
「今日はね、川崎に寄り道したから、お慶さんに鶴見から送ってもらった」
「まあ…それはどうも」
「いやいや、知らない人やなかったですし」
それに、と慶は続けた。
「年頃の女の子ですから、ちゃんと送らないとと思いまして」
ではこれで、と慶は帰ろうとした。
「お慶ちゃん、ご飯は?」
「帰ってから食べようかと」
「あら、食べて行きなさいよ」
「そらなんぼなんでも失礼ですから」
「いや、たまには私だって男の人と食事したいわよ。ねえ」
もとは芸者でもあった操だけに、そこは男のさばきかたがうまい。
「…じゃあ、少しだけお言葉に甘えまして」
慶はあがるはめになった。