【完】『潮騒物語』
鎌高前の停車所から七里ヶ浜、稲村ヶ崎と江ノ電を乗って、稲村ヶ崎の次が極楽寺になる。
極楽寺の停留所から細い路地を抜ける。
路地から山門をくぐると、参道の石段があった。
石段は細く長い。
「成就院」
と書かれた門がある。
明月院とならんで俗にアジサイ寺と呼ばれる古刹でもある。
すぐに萌々子はピンとこなかったが、
(あ、極楽寺のアジサイ寺かぁ)
それが分かると早い。
小学校の頃、萌々子が図工の授業でスケッチにクラスで出かけた寺でもある。
(どんな感じなんだろ)
萌々子は興味本位ながら、赴いてみた。
さすがに両脇のアジサイは時期が違うだけに冬枯れの梢だけの姿である。
石段を登りはじめた。
すると。
上段から、慶が降りてきたのである。
「…あ」
「何でおんねん」
たまげた慶は、そうとしか訊きようがない。
「店長さんに聞いたら、ここだっていうから」
「…さよか」
あんまり話したことないんやが、と慶は元カノののぞみのことを語り始めた。