【完】『潮騒物語』
やがて。
親密になると、のぞみと慶は互いに結婚というものを意識するようになり、のぞみの横須賀の生家へ挨拶に慶が出向いたり、弁天町の慶の実家へのぞみが泊まりに来たり、互いの往き来が頻繁になっていった。
実家のキッチンでのぞみが慶の母親と仲良さげに並んで料理をする姿を見ると、
(のぞみに出逢えて良かった)
と心底から慶は、感謝の気持ちがわいてきた。
慶も横須賀に行くと、のぞみの父親の将棋の相手をしたり、共通の趣味のバイクの話で盛り上がったり…とすっかり馴染んで、
「うちに初めて息子が出来た」
と慶は、可愛がってもらうことが多かった。
約一年ほど過ぎた頃。
のぞみの藤尾家と慶の實平家の家族ぐるみで行った心斎橋のホテルでの食事会で、正式に婚約が決まった。
のぞみは面接で大手の居酒屋に採用が内定が取れた。
「慶ちゃん、これで晴れて結婚出来るよ」
仕事が終わったら迎えに来てね、というメールがきた。
返信は、
「行くから待っとけや」
慶はメールでも関西弁である。
(これでのぞみも変に神経使わんで済む)
ようやく安堵した様子の慶は、当時独り暮らしをしていた鷺洲からバイクで迎えに出た。
少し混んでいる。
四ツ橋の交差点に差し掛かり、信号待ちをしていた。