【完】『潮騒物語』
◎
慶の姓は珍しい。
實平(さねひら)、と読む。
慶がなぜ関西弁なのか萌々子は分からなかったが、慶のいる花屋によく立ち寄る祖母の操の話では、
──大阪の大学を出てから関東に来た。
ということで、それだけは確かな消息らしい。
そもそも。
過去のことを、あまり慶は詳しくいわない。
聞き出そうとすると、
「あれこれ話したかて構わんけど、三分で五百円もらうで」
とおどけ、最終的にはうまいこと笑わせて、はぐらかしてしまうのである。
あとから知ったが、自宅が鶴見にあるのもはじめは疑問で、
「最初は系列の総持寺の門前の花屋で働いてたんやけど、人手が足らんから鎌倉に回ってくれ言われて」
それで一時間かけて、毎日通勤している…との由であった。
ついでながら鶴見の総持寺というのは禅宗の本山で、石原裕次郎の墓があることでも知られており、遠方の参拝客が門前の花屋で供華を買うことがよくある。
どうやら元々そこへ最初アルバイトか何かで採用されたらしい。
實平(さねひら)、と読む。
慶がなぜ関西弁なのか萌々子は分からなかったが、慶のいる花屋によく立ち寄る祖母の操の話では、
──大阪の大学を出てから関東に来た。
ということで、それだけは確かな消息らしい。
そもそも。
過去のことを、あまり慶は詳しくいわない。
聞き出そうとすると、
「あれこれ話したかて構わんけど、三分で五百円もらうで」
とおどけ、最終的にはうまいこと笑わせて、はぐらかしてしまうのである。
あとから知ったが、自宅が鶴見にあるのもはじめは疑問で、
「最初は系列の総持寺の門前の花屋で働いてたんやけど、人手が足らんから鎌倉に回ってくれ言われて」
それで一時間かけて、毎日通勤している…との由であった。
ついでながら鶴見の総持寺というのは禅宗の本山で、石原裕次郎の墓があることでも知られており、遠方の参拝客が門前の花屋で供華を買うことがよくある。
どうやら元々そこへ最初アルバイトか何かで採用されたらしい。