【完】『潮騒物語』


五月の萌々子の中間試験が済んだ日、気になっていた夜来の雨は、午後になると上がった。

慶のバイクが桜木町の駅へ着いた頃には、雲が切れ始めている。

萌々子は刺繍の入ったゴスロリ服で駆け寄った。

「あ、待った?」

「全然やで」

見ると、慶のバイクが変わっている。

いつものスポーツタイプではなく、少しクラシカルな真っ白いバイクである。

「途中アップダウンあるから、今日はパワーあるやつにした」

すでにあれこれ調べてあるらしく、

「まあ小一時間あれば着くやろ」

といい、萌々子を後にタンデムして慶のバイクは桜木町を出た。

黄金町を過ぎて一本橋を左へ折れ、道なりに吉野町の交差点を磯子の方角へ走ると、坂を登り切った向こう側に磯子の町並みが見えてきた。

「何か高速えらい混んでるらしいねん」

そういうと慶は、杉田の根岸線をくぐって産業道路を横須賀へ抜けるルートを選んだらしい。

少し金沢文庫の辺りで渋滞はあったが、追浜を過ぎて横須賀の中心部まで来るとだいぶ車は減ってきた。




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