【完】『潮騒物語』
◎
五月の萌々子の中間試験が済んだ日、気になっていた夜来の雨は、午後になると上がった。
慶のバイクが桜木町の駅へ着いた頃には、雲が切れ始めている。
萌々子は刺繍の入ったゴスロリ服で駆け寄った。
「あ、待った?」
「全然やで」
見ると、慶のバイクが変わっている。
いつものスポーツタイプではなく、少しクラシカルな真っ白いバイクである。
「途中アップダウンあるから、今日はパワーあるやつにした」
すでにあれこれ調べてあるらしく、
「まあ小一時間あれば着くやろ」
といい、萌々子を後にタンデムして慶のバイクは桜木町を出た。
黄金町を過ぎて一本橋を左へ折れ、道なりに吉野町の交差点を磯子の方角へ走ると、坂を登り切った向こう側に磯子の町並みが見えてきた。
「何か高速えらい混んでるらしいねん」
そういうと慶は、杉田の根岸線をくぐって産業道路を横須賀へ抜けるルートを選んだらしい。
少し金沢文庫の辺りで渋滞はあったが、追浜を過ぎて横須賀の中心部まで来るとだいぶ車は減ってきた。