【完】『潮騒物語』
◎
日曜日になった。
トランクをコロコロひきながら、真っ白のロリータ服で萌々子はいつもの坂道を降りてゆく。
雲が切れた。
下り坂を右手に曲がりきると、キラキラと海が開けてくる。
晴れてきた。
坂の中ほどに花屋がある。
「こんにちは」
店長の星野美沙が萌々子に声をかけてきた。
「あ、お慶ちゃん今日休みだよ」
どうやら店ではお慶ちゃんと呼ばれているらしい。
「それとさ」
星野店長はいう。
「お慶ちゃんね…ちょっと変わってるでしょ?」
萌々子はしばし考えた。
「関西弁…ですか?」
「それもあるけど…あれで実は昔けっこう大変だったらしいんだよね」
プライバシーがあるから詳しくは話せないけど──と星野店長はいった。
「たぶんね、ひとりでフラフラするの好きだから、房総あたりまでバイクで遠征してると思う」
バイクかなり好きだしね、と星野店長は付け加えたのだが、
「そうなんですね」
としか萌々子は答えられなかった。