【完】『潮騒物語』
坂の麓の江ノ電で藤沢まで出ると、萌々子は東海道線と根岸線を乗り継いで蒲田で降りた。
(今日こそは生地も買わなきゃ)
手芸屋に生地を見に来たのである。
生地屋に入ると萌々子は和柄のコーナーに向かい、縮緬の端切れを幾つか買い、
「プレゼントなんで、ラッピングお願いします」
と包装をしてもらった。
プレゼントが片付くと次は別の生地屋に入り、今度はバラやグラジオラスといった派手目の生地を吟味し始めた。
そのうち。
トランプ柄の生地を見つけ、萌々子はそれを截断してもらって購入している。
その後も糸やレースなど、足りないとおぼしき洋品を買い揃えると、トランクをコロコロひいて、蒲田から鎌倉を目指して萌々子は、帰ってゆくのである。
江ノ電を降りたときには、陽が落ちて暗くなり始めていた。