「異世界ファンタジーで15+1のお題」一
「レヴ!ちょっと来てくれ!」

「どうした、セルジュ、なにかあったのか…」

「たいしたことじゃないんだけど…ちょっと揉めてるみたいなんだ。」

とりあえずは、喧嘩ではなかったことに安堵し、私達は少し離れた所からなりゆきをみつめていた。

女性は芸人の胸にすがりつくようにして泣いている。



「痴話喧嘩だったのかな?」

「あの様子では、そうなのかもしれないな。」

「男の方は遊びだったのに、女は真剣になっちまったって所か…」

「可哀想にな…」

何人かの人々が女性の周りに集まり、なだめているようだった。
やがて、女性一人をその場に置いたまま、芸人の一行は去って行ってしまった。



「レヴ…大丈夫かな、あの娘…」

「……大丈夫だとは思うが…しばらく様子を見てみるか…」

「……俺、ちょっと行って来るわ。」

セルジュは、やはりその女性のことが気になったのか、女性の元へ駆け寄って行った。
私も気になり、エミルと一緒に女性の元へ向かう。
セルジュは、女性には意外と優しく接することが出来るようだ。
この分では彼に任せておいて大丈夫だろうと、私はエミルを連れ、元の場所に戻った。
もうそろそろグレンが戻って来る頃ではないかと思ったからだ。
エミルと他愛ない話をしながら待っていると、程なくしてグレンが戻って来た。



「待たせてすまなかったな。
じゃあ、帰ろうか…
おや?セルジュはどうしたんだ?」

「セルジュは…」

言いかけた時、ちょうどセルジュが歩いて来るのが見えた。
先程の女性と一緒だ。



「セルジュ…その人は?」

「彼女の名はルシア。
ちょっとばかり理由ありでな。
グレン、勝手言ってすまないが、彼女もしばらくあんたの家に置いてやってもらえないか?」

「え…?!
そ、それは、かまわないが…」

セルジュは、私にこっそりと片目をつぶって合図を送った。
しかし、それが意味するものが何なのか、その時の私にはわかってはいなかった。

間近で見た女性は、思っていたよりも幾分若いように思えた。
もしかすると、まだ十代かもしれない。
相当泣いていたらしく、目は腫れ、鼻も赤くなっていた。
よほどのことがあったのか、彼女の全身に疲労の跡が色濃く現れ、その顔は憔悴しきって見えた。
足元さえもおぼつかない。
そんな彼女を支えるようにして、セルジュは寄り沿う。

私達はエミルを家まで送り届け、その後、四人でグレンの屋敷へ戻った。

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