あの夏よりも、遠いところへ
空を泳ぐ
「……俺な、夢があるねん」
息を吐くようにこぼしたその一言が、わたしの手のひらに落ちて弾けた。
「ふうん」
「北野は、ある? ……夢」
ないと言えばないし、あると言えばある。
それはどちらも嘘で本当だから、上手く答えられない。
「……ま、ええねんけど、別に」
彼は息をこぼして笑った。
わたしは泣きそうだった。
彼の向こう側から昇る朝日がまぶしすぎて、彼の顔がよく見えない。
「……空を、泳ぎたいねん」
「え?」
「できれば、北野と、一緒に」
奇跡が落ちる。落ちて広がる。
大嫌いな世界を背に、彼が照れながら笑った。
それはありふれていて、奇跡みたいな笑顔。
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