あの夏よりも、遠いところへ
変なスイッチが入ってしまった俺は、ケアレスミスの連発だった。
こんなはずじゃねえのに。北野に見られていると思うと、どうも思うようなプレーができない。
「清見ぃ、北野さんが見てるからって力みすぎちゃうかー?」
「バッ……、遠藤ほんましばくぞおまえ! 声でかいねんっ」
絶対に聞かれた。北野にも、他のチームメートにも。
ベンチの後輩やコーチもニタニタしてんだから、最悪だ。
そんな調子で数時間。夕方になっても、北野はそこにいて、じいっと俺を見つめたまま。石像かと思う。
むしろ石像のほうがよかった。生身の北野だって思うだけで、全然いいプレーができねえんだもん。
……あーあ。俺、たぶん、めっちゃかっこ悪かった。
「まず、蓮。お前な、彼女見に来とんねんから、もうちょっとかっこええとこ見せたらなアカンやろ」
「……いや。彼女ちゃいますから」
コーチにはボロクソ言われるし、チームメートには冷やかされるし、散々だった。
なんで試合に誘ってしまったんだろう、俺。北野にも申し訳ないことをしてしまった気がする。
「――北野っ」
それでもずっとそこにいてくれた彼女に、チームメートの視線を一身に浴びながらも、駆け寄った。
「お疲れさま」
「おう。来てくれてありがとうな」
お、顔色ひとつ変えない。やっぱり北野って、すげえやつだ。