あの夏よりも、遠いところへ

彼女は考えるように目線を逸らして、すぐに俺を見上げた。


「はい、これ」

「え?」

「こないだのお礼ね」


紙袋が差し出されている。北野らしくない、めちゃくちゃかわいいやつ。ピンク色だぜ。思わず笑っちまいそうだったよ。


「え、なに?」

「見れば」


かわいい紙袋を開けると、500mlのスポーツドリンクが1本と、見覚えのあるタオル。

……アディダスだ! 血だらけになって捨てた、お気に入りのやつ。


「これ……もしかして」

「買ってきた。それであってる? いいタオルなのに、ダメにしちゃったからさ」


新品だ。まだパリッとしている。


「うん、これでおうてる……。びっくりした。ありがとう」

「ううん、こっちこそありがと。おまけがそんなドリンクでごめん」


俺が勝手に押し付けただけなのに、わざわざ買ってきてくれるなんて、すげえ律儀だ。

ちょっと申し訳ない。たぶんこれ、安い買い物じゃねえのに。


「試合、見たよ」


うわ、いきなり本題かよ。


「すごい怒られてたね」

「……おう」

「がんばってね」


嫌味ではないと思うけど、なんだか物凄く恥ずかしかった。ガンバッテって、なんか嫌じゃん。

バスケはもっと面白いんだと豪語していたくせに、俺いま、すげえ情けない。
< 101 / 211 >

この作品をシェア

pagetop