あの夏よりも、遠いところへ
彼女は考えるように目線を逸らして、すぐに俺を見上げた。
「はい、これ」
「え?」
「こないだのお礼ね」
紙袋が差し出されている。北野らしくない、めちゃくちゃかわいいやつ。ピンク色だぜ。思わず笑っちまいそうだったよ。
「え、なに?」
「見れば」
かわいい紙袋を開けると、500mlのスポーツドリンクが1本と、見覚えのあるタオル。
……アディダスだ! 血だらけになって捨てた、お気に入りのやつ。
「これ……もしかして」
「買ってきた。それであってる? いいタオルなのに、ダメにしちゃったからさ」
新品だ。まだパリッとしている。
「うん、これでおうてる……。びっくりした。ありがとう」
「ううん、こっちこそありがと。おまけがそんなドリンクでごめん」
俺が勝手に押し付けただけなのに、わざわざ買ってきてくれるなんて、すげえ律儀だ。
ちょっと申し訳ない。たぶんこれ、安い買い物じゃねえのに。
「試合、見たよ」
うわ、いきなり本題かよ。
「すごい怒られてたね」
「……おう」
「がんばってね」
嫌味ではないと思うけど、なんだか物凄く恥ずかしかった。ガンバッテって、なんか嫌じゃん。
バスケはもっと面白いんだと豪語していたくせに、俺いま、すげえ情けない。