あの夏よりも、遠いところへ
「陽斗くんと、お別れすることになったんだあ」
涙を流しながら、雪ちゃんはへらりと笑った。
なに、へらへらしてんだよ。そんなに泣いて、情けない顔になっているくせに、なにがおかしいっていうの。
「……ごめんね。朝日ちゃんはすごく応援してくれてたから、言いたくなかった」
本気でそう思っているの? わたしがふたりを、心の底から応援していたって。
陽斗が雪ちゃんを好きじゃなかったら、わたしはたぶん、雪ちゃんのことなんか応援していなかったよ。
「……陽斗から言ったの?」
「え?」
「陽斗が、別れようって言ったの?」
雪ちゃんは少し考えて、小さく頷く。
「嫌だって言わなかったの?」
「だって……仕方ないよ。陽斗くんのこと困らせたくないもん……っ」
どうせ雪ちゃんはきっと、「分かった」なんて言って、へらりと笑ってみせたんだ。いま、こんなに泣いているくせに、いい子の振りをしたんだ。
苛々する。腹が立つ。
わたしが喉から手が出るほど欲しかったものを、それでも諦めたものを、雪ちゃんはこんなふうに、簡単に手放そうとしている。
「……馬鹿じゃないの」
本当は引っぱたいてやりたかった。けれど泣いている彼女を見たら、どうしても、抱きしめてしまった。
やっぱりわたしはなにを思ったって、雪ちゃんの妹なんだなあ。