あの夏よりも、遠いところへ
こんなにかわいくて優しい、わたしのたったひとりのお姉ちゃんを、彼はどんな理由で振ったというの。
「陽斗と話してくる」
「えっ?」
雪ちゃんがなにか言っていたけど、そのまま家を飛び出した。
夜は冷えるなあ。あの夜も、こんなふうに家を飛び出して、肌寒さを感じたんだっけ。
なつかしいな。もうあれから3年近くも経つんだ。わたしが陽斗に振られた夜から、もう、そんなに。
彼のことをまだ好きなのかと訊かれたら、きっと上手く答えられない。
たぶん、ずっと、特別なひと。わたしが最初に好きになったひとに変わりはないもん。
けれどやっぱり、陽斗は雪ちゃんの恋人。
そんなふうに思ってきたのに、どうして。
「――うわ、びっくりした」
夜遅く、ひとりで彼の部屋を訪ねたわたしに、眼鏡姿の陽斗は目をまあるくしていた。
雪ちゃんと違ってけろっとした顔だ。気に入らない。
「こんな時間にひとりで出歩いちゃ危ないって。大阪は物騒なんだから」
「知らないよ」
「朝日は女の子なんだよ」
だから知るかよ、そんなの。
うちから陽斗の住むマンションまで、電車で4駅。気軽に行けない距離ではないけれど、こうしてひとりで訪れたのは、これがはじめてだ。