あの夏よりも、遠いところへ
そもそもわたしは、ふたりになにがあったのか知らない。
どうして別れ話になったのか、いつから付き合っているのかさえ、知らない。なにひとつ知らない。
悔しかった。結局わたしの独りよがりだったんだと、夜道を歩きながら実感した。
彼は優しいから、送ると言ってくれたけれど、うちまでの30分間を耐えられる気がしなくて、ひとりで帰ると意地を張った。
それに、うちには雪ちゃんがいる。おそらく彼女はまだ泣いている。
どうして夜は黒いのだろう。すべてを塗りつぶす色なら、このままわたしのことを溶かしてほしいよ。
うちに帰っても寝付けなくて、気付けば朝日が昇っていた。
どうしても学校に行く気にはなれなかった。
「ええ? 休みたい? ぴんぴんしてるじゃない。ずる休みしたいだけでしょう?」
「頭痛いって言ってるじゃん」
「そんなの頭痛薬飲めばいいわよ」
目を腫らして起きてきた雪ちゃんのことは心配したくせにさ。本当にわたし、お母さんに嫌われてるんだな。
「どうしても休みたいなら、自分で学校に電話しなさいよ」
「……分かったよ」
むかつく。全部、全部、大嫌い。世界中が、わたしの敵なんだ。
ふと、無性に清見のピアノが聴きたくなった。もやもやを吹き飛ばしてくれる、あの切ない旋律を。
でも、世界は雑音で溢れていて、どうしてもあの音が思い出せないよ。
頭まで布団をかぶってみても、うるさくてたまらない。