あの夏よりも、遠いところへ

清見のほうに歩みを進めると、彼はしゃがみ込んだまま、目だけでわたしを見上げた。

バスケットボール、大きいな。球技大会で使っていたボールよりも重たい気がする。


「それ、男子用やねん」

「男女で違うんだ?」

「体格差もあるしなあ」


へえ。知らなかった。

斜め上のゴールに向かってシュートを撃つと、輪っかにも届かずに、どすんと落ちた。


「すごいね。あそこまで届くなんて」

「あたりまえや。何年バスケやってる思てんねん」

「いつからなの?」

「小学生のころからやな。ちゃんと部活としてやり始めたのんは中学からやけど」


すごい。清見はきっと、バスケがとても好きなんだ。好きじゃないと続かないよ。

わたしには一途に続けてきた大切なものって、無いし。


「ピアノも、ずっと?」

「おう」

「ふうん。ピアノとバスケって、変な組み合わせ」


バスケなんてすぐに指をダメにしてしまいそうなのに。

清見はどっちが好きなんだろう。そんな野暮なこと、さすがに訊いたりはしないけどさ。


「それ、妹にもめっちゃ言われんねんか」


清見は小さく笑って、ボールをひとつ手に取ると、きれいな動作でシュートを撃った。

今度はあの輪っかまで届く。届いて、すぱっと決まった。
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