あの夏よりも、遠いところへ
重力に逆らわないボールが、素直に地面に到達した。
きれいな景色だな。あの散らかったボールは全部、清見がシュートを撃ち続けた証拠。
「……雪ちゃんのこと、気にしてたね」
「えっ」
「気にしてたよ、すごく」
その翌日にこんな情けないフリースローを見せられたら、なにか関係しているとしか思えない。
……そう。たとえば、恋をしてしまった、とか。
「……北野て、めっちゃ人のこと見てるやんなあ」
「そう?」
「うん。なのにクラスメートの名前覚えてへんとか、おもろすぎ」
くくくと、噛み殺すように笑った清見は、とても関西人っぽい。オモロイコトに目が無いって感じ。
それなのに突然、真剣な横顔に変わるから困るんだ。彼は真剣な瞳でゴールリングを見据え、ふっと息を吐く。
唖然としていると、彼は籠の中からひとつボールを掴んで、そのままするするとドリブルをしてしまった。
レイアップシュート。こんなにきれいなそれを、わたしはたぶん、生まれてはじめて見た。
「……北野っ」
「えっ?」
「引かへん?」
引く? 弾く? なにを?
ゴールの下で立ち尽くす清見はこっちを見ないままだから、どんな表情をしているのかさえ、分からないよ。