あの夏よりも、遠いところへ
「めっちゃ女々しいこと言うても、引かへん?」
弱々しくそう言った清見の両手から、優しいパスが飛んできた。たぶん、顔面に当たっても鼻血は出ないくらいの。
わたしがボールを胸の前で受け取ると、彼は眉を下げて笑った。
「……引かないよ。なに?」
「俺、好きなやつ、おるねん」
意外だ。そういうの、興味なさそうなのに。雪ちゃんは別としてさ。
だって、清見が女の子と仲良くしているの、見たことないし。
「もうずっと昔やけどさ、小5のとき。好きなやつおってん」
「うん」
「そいつ、死んでんやん。なんも言わんと、黙って、勝手に。俺が好きて言う前にやで」
ひどいよなあと、清見は泣きそうな顔で笑った。
「……そいつな、めっちゃ、似てんねんか。北野の姉ちゃんと」
「え……?」
あまり根掘り葉掘り訊いてはいけないような気がした。
訊いたことすべてに、きっと清見は答えてくれると思う。でも訊けなかった。いまは、黙って頷くほかに、なにもしちゃいけないような気がしたんだ。
「腰抜けそうなった。他人の空似てすごいな」
「……うん」
「おかげで、ああ俺、まだあいつのこと好きなんやって、実感したわ」
わたしの知らない、清見の歴史。もう二度と会えない誰かを想い続けている彼は、とても無垢な生き物に見えて、まぶしかった。