あの夏よりも、遠いところへ
彼の視線がぽとりと落ちる。かと思えば、おもむろに散らばったボールを拾い上げ、黙ってひとつずつ、丁寧に籠に投げ始めた。
正確で、とても優しいシュート。
もう終わりなのかな。フリースローも、レイアップも。
「……わたしも」
「え?」
言う必要はないと思う。雪ちゃんのこと、陽斗のこと。
けれど清見は、きっととても大切なことを教えてくれた。だからわたしも教えようと思った。
ずっと胸に抱えていた秘密を。くだらない、ちっぽけな、ありふれた気持ちを。
「わたしも、好きなひと……いたよ」
「え、ほんまに? めっちゃ意外やねんけど」
それはどういう意味だよ。
彼は手を止めて、じっとわたしの顔を見つめる。
ずっと誰かを見つめてきた人間の目というのは、こんなにもきれいなんだ。すごい。吸い込まれてしまいそう。
「……雪ちゃんの恋人だから」
「え?」
「雪ちゃんには彼氏がいるって言ったでしょ。わたし、そのひとのこと好きだった。初恋だったよ」
過去形にするのはどうかと思う。いま、陽斗に対して、なにも気持ちが無いわけじゃないから。
でも、好きだと現在形で言うのも違う。
清見の透明な瞳があまりに真っ直ぐ見つめるから、よく分からない気持ちを隠すように、ふいっと目線を外した。