あの夏よりも、遠いところへ
「……いまは、好きちゃうん?」
それでもなお追いかけてくるんだから、清見は凄いな。
「べつに」
そうだとも、違うとも言えなかった。清見に嘘はつけないと思ったんだ。
沈黙が落ちて、嫌になった。5メートル先の清見を見た。目が合う。同時に、彼が笑った。
困ったような、胸がぎゅっと掴まれる、かわいい笑顔。少年がそのまま大きくなったような感じ。
「……アホやんな」
「え……?」
「こんなつもりちゃうかったのにな」
でも、と続いた。
「どうしようもないねん。たぶん俺は、あいつが死ぬて分かってても、好きやった。きっと、好きになってた」
わたしは? わたしは、あのころから陽斗が雪ちゃんの恋人だったとしても、好きになってた?
少年のように無垢な清見とは違う。優しくて素直な雪ちゃんとは違う。
けど、わたしだって、本当に陽斗が好きだった。
「……うん。わたしも」
あの気持ちはたしかに、本物だったよ。そうだよ、いまだって。
「よし。北野、バスケしよ」
「はい?」
「ワン・オン・ワン。ちゃんと手加減はするし」
清見はよく分からない。散らかったボールを手際よく片付けて、そうかと思ったら、倉庫から女子用のボールをひとつ出してきた。
どうやらわたしの意見を聞くつもりはないらしい。