あの夏よりも、遠いところへ
清見はすごかった。ドリブルしながら身体をくるくると回してみせるし、ボールを足の間にくぐらせてみせるし、ワン・オン・ワンっていうか、わたしはもはや練習相手にすらなっていない感じ。
彼は全然ダメだと自分を評価するけど、素人からしてみれば、じゅうぶんすごいよ。シュートもちゃんと決まっていた。
「――オモロイなっ」
いつしか本気でがんばり始めていたわたしが、肩で息をするようになったころ。清見はボールを手の上でくるくる回しながら、そんな能天気な台詞を言った。
「部活も好きやけど、たまにはこういうのもええなあ」
「わたしは疲れただけだよ」
それと、言葉にならない屈辱感を味わっただけ。
「けど、北野かて本気になっとったやん?」
「だって腹立ったもん」
「あはは! そういうとこ、ほんまかっこええと思う」
嬉しくない。制服で走り回ったせいで、身体はべたつくし、スカートのプリーツは乱れるし。
ていうか、どうしてわたしが放課後の体育館でバスケなんかしないといけないんだろう。わけ分かんない。
「あっちー。めっちゃ汗かいた!」
ネクタイを解いて、シャツのボタンをふたつ外して。そこまでしても全然色気のない顔で暑いと喚く清見は、やっぱり子どもみたい。自分でバスケしようって言ったくせに、馬鹿だ。