あの夏よりも、遠いところへ
お父さんとお母さんは、何度か陽斗に会ったことがある。4人で一緒に夕食に行ったこともある。当然のようにわたしは留守番だったけど。
ふたりとも、陽斗のこと、とても気に入っている。優しくていい子だって。おまけに父親が有名なピアニストなんだから、文句なしだってさ。
くだらない。わたしだったら、自分の恋人のこと、そんなふうに品定めしてほしくない。
「……ごめんなさい」
雪ちゃんが小さな声で謝った。めずらしく泣いていなかった。雪ちゃんはすぐに泣くから、意外だな。
「でも、陽斗くんのことは、悪く言わないで」
それだけ残して部屋に消えた雪ちゃんを、お母さんとお父さんは、茫然と見ていた。
「……朝日」
「なに?」
「なにか知らないのか」
いつもはわたしなんか放っておいてばかりのくせに、すごい。ご都合主義ってこういうことだ。こんなときだけ構ってくるなんて、信じられないっての。
お父さんの顔は見ずに、小さく息を吐いた。やっぱり上手く不機嫌な顔を隠せないのは嫌だな。
「知らない。本人に訊いてよ。わたし、もう寝るし」
馬鹿みたい。家族みんなが朝まで起きて待っていたのに、肝心の雪ちゃんはなにも言わないで寝ちゃうんだもん。
でも、いきなり怒鳴りつけたお父さんとお母さんだって、わたしは悪いと思う。