あの夏よりも、遠いところへ

とりあえず、早く席替えしてえなと思った。だってこの席からじゃ、北野のこと全然見えねえもん。時たま板書するために前に立つ彼女の立ち姿を見るだけ。

立ち姿、めちゃくちゃきれいなんだ。背筋がすっと伸びて、脚をきちんと揃えて。スタイル抜群ってわけじゃないんだけど、きれいだなって印象。

意外と短くしているスカートとか、見ちまうよな。俺も男だしさ。黒くツヤのある髪は、やっぱり時々ぴょこんと寝癖がついていて、オモロイ。かわいい。


「……かわいい、てよ」


素でそんなことを思っている自分に、笑える。


黒板の前に立つ北野をじいっと見ていると、こっちを振り向いた彼女と、ばちっと目が合った。

椅子から落ちるかと思った。だって北野、逸らさねえしさ。それなのに、こっちが必死に見つめ返していると、ふいっと顔を背けるんだ。そして顔色ひとつ変えず、自分の席に戻っていく。

これはいったいなんの罰ゲームなんだよ。


あのプールの日から、どうしても北野の中に女を探してしまう。ていうか、俺が分からなかっただけで、最初から女だったんだろうけど。

かわいいとこ、オモロイとこ、たくさんある。ずっと北野はかっこいい存在だと思っていたのに。


『――清見だけはとられたくない』


1日に30回はリピートして、ひとりでにやけてんだ、俺。

北野は俺のこと、どう思ってんだろう? ただのクラスメート?

俺は少し他のやつよりも距離が近いって、思ってもいいよな。そうじゃなきゃ、あんなこと、言わねえよな。

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