あの夏よりも、遠いところへ
自慢じゃないが、生まれてこの方、女子に告白された経験は無い。
マジかよ。はじめてが実の妹って、まずいんじゃねえの。いやいや、べつに、はじめてじゃなくてもまずいって。
「……なんやねん、その間抜けヅラ」
「いやいや……スミレ、どないしたん。熱でもあるんか?」
「無いわボケ! しばくぞ!」
かわいい顔して汚ねえ言葉使うんじゃねえよ。
……そう、かわいいんだよな。
スミレは、兄のひいき目を抜きにしても、たしかにかわいい。こんなかわいい妹が、よりによってこんな男のどこを好きになるというんだろう。
ていうかスミレ、遠藤のこと好きだって言っていただろう。
「スミレかて、なんで兄ちゃんみたいなん好きなんか分からへん。でも、好きやねん。大好きや」
「お、おう……」
「でも、スミレは、どうがんばっても兄ちゃんの彼女にはなられへんやんか……っ」
怒った顔をしながら、スミレはぼろぼろと涙を流した。本気で俺を好きなんだろうと思う。信じられねえけど。
「やからな、兄ちゃんのこと、ちゃんと幸せにしてくれる女がええねん。ほんまはスミレが幸せにしてあげたいねんけどなっ」
「おう……?」
「なあ、兄ちゃん。『サヤ』は死んどんねんよ? 兄ちゃんのこと幸せにしてくれへんよ……?」
むかつくし、かわいくねえと思った瞬間は数え切れない。けど、こいつはやっぱり、すげえかわいい、たったひとりの妹だ。