あの夏よりも、遠いところへ
 ◇◇

……しまったな。なんで俺、北野の連絡先知らねえんだろう。

番号とか、アドレスとか、なんかあっただろ。なんで訊かなかったんだろう。いや、タイミングがなかったんだけどさ。

ということは、もしかして俺、このインターホンを押さなきゃいけないんじゃねえの? この、明らかにご家族そろってますっていう時間帯に。


「……いや、無理やでな」


オトンとかオカンが出る可能性が高すぎる。だからといって小雪さんが出てきてもどんな顔をすればいいか分かんねえし、ていうかむしろ、こんな時間に押し掛けるってどうなんだ?

北野にも非常識なやつだとか思われるだろうか。そんなこと思わねえかな。真顔で「なに?」って言うんだろうな。すげえ想像できる。


……まあ、なんでもいいや。いまじゃないとダメなんだ。

もう後悔したくねえんだよ。北野はたぶん、サヤみたいにいなくなったりしねえけど、いま会わないとダメだって思う。


だからインターホンを押した。勢いだけで。


「――はい」


うわ、うわ、オカンの声だぜ……!


「あ、の……俺、清見いうんですけど、北野の……朝日さんのクラスの……」

「朝日の友達? ちょっと待ってね」

「あ、はいっ」


当然だけど、オカンもきれいな標準語を話すんだな。
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