あの夏よりも、遠いところへ

ドアが開かれるまでのあいだが物凄く長く感じられた。ドアからぬっと出てきたのは、北野朝日そのひとで、全身から力が抜けた。


「清見? なにしてるの?」

「タマシイ拾てる……」


いきなりうなだれてしゃがみこんだ俺を見て、北野はどうしていいか分からないようだった。そりゃ分かんねえだろうよ。俺だって分かんねえもん。

どうしてここに来たのか、いまからどうするのか、まったくのノープランだし。


「なんかあった?」

「おう」

「どうしたの」

「……めっちゃ、会いたなってん」


なにを言っているんだろう。でも、全然恥ずかしくなかった。するりと言葉が口をついて出てきたんだ。

北野もしゃがみこんで、同じ目線の先で、戸惑ったように瞳を揺らしている。

そういう顔、ひとりじめしてえなって思う。本気だぜ。真っ直ぐで迷いのない顔が、すげえ女っぽくなるの。他のやつには見せてたまるか。


「いまから時間ある?」

「うん。大丈夫だよ」

「ほしたら、一緒に来てくれへん?」


彼女は驚いたように目を開いて、少し考えて、小さく頷いた。


「着替えてくるから待ってて」

「おう」


そういえばルームウェアだ。前に見舞いに来たときはジャージだったけど、なんかきょうは、すげえかわいいやつじゃん。

いまさら心臓がうるせえ。
< 203 / 211 >

この作品をシェア

pagetop