あの夏よりも、遠いところへ
ドアが開かれるまでのあいだが物凄く長く感じられた。ドアからぬっと出てきたのは、北野朝日そのひとで、全身から力が抜けた。
「清見? なにしてるの?」
「タマシイ拾てる……」
いきなりうなだれてしゃがみこんだ俺を見て、北野はどうしていいか分からないようだった。そりゃ分かんねえだろうよ。俺だって分かんねえもん。
どうしてここに来たのか、いまからどうするのか、まったくのノープランだし。
「なんかあった?」
「おう」
「どうしたの」
「……めっちゃ、会いたなってん」
なにを言っているんだろう。でも、全然恥ずかしくなかった。するりと言葉が口をついて出てきたんだ。
北野もしゃがみこんで、同じ目線の先で、戸惑ったように瞳を揺らしている。
そういう顔、ひとりじめしてえなって思う。本気だぜ。真っ直ぐで迷いのない顔が、すげえ女っぽくなるの。他のやつには見せてたまるか。
「いまから時間ある?」
「うん。大丈夫だよ」
「ほしたら、一緒に来てくれへん?」
彼女は驚いたように目を開いて、少し考えて、小さく頷いた。
「着替えてくるから待ってて」
「おう」
そういえばルームウェアだ。前に見舞いに来たときはジャージだったけど、なんかきょうは、すげえかわいいやつじゃん。
いまさら心臓がうるせえ。