あの夏よりも、遠いところへ

北野は5分後、制服に着替えて出てきた。なんでわざわざ制服なのかと訊くと、清見が制服だからと言われた。


「ほな、行こか」

「どこに?」

「分からん」


とりあえず自転車の後ろに北野を乗せて、ぶらぶらした。静かだ。北野もなにも言わねえし。


「……なあ、学校行かへん?」

「学校?」

「おう。裏口知っとんねん」


裏門の前に自転車を停めて、運動部がよく使っている裏口から、夜の学校に忍び込んだ。どきどきした。明かりの無い学校ってのは、昼間とは全然違う。なんだか異世界みたいだ。


「ねえ、それなに?」


北野が指さしたのは、俺が抱えている白い箱。あの夏、サヤに貰ったものだ。中には彼女の楽譜と、俺宛ての手紙が入っている。


「……内緒や」

「ふうん」


北野は、それ以上は追及してこなかった。もしかしたら爆弾が入っているかもしれねえのに、不用心だな。


「ねえ、清見」

「ん?」

「プールに入らない?」


あの日、プールに落ちそうになっただけで気を失っていた彼女がそんなことを言うんだから、驚いた。
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