あの夏よりも、遠いところへ
並んでプールサイドに座り、朝日を待った。朝日って、北野じゃなくて、太陽のほう。
また朝帰りだ。今度からは連絡しろと言われていたから、きょうはきっと、怒られるだろうな。
夜明けが近い。15センチ左にある北野の手のひらを握ると、彼女はびくっと肩を震わせたけれど、すぐに握り返してくれた。
女っぽい指先だ。少し柔らかくて、冷たい。
夏の夜明けは本当に早い。太陽が顔を出したとき、校庭の時計は、4時30分の少し手前を指していた。
「……もう、夏休みやねんなあ」
「そうだね」
どきどきする。わくわくする。こんな夏休みは、たぶん、生まれてはじめてだ。
目の前に輝く朝日はとてもまぶしくて、思わず目を細めた。
「夏祭りとか、海とかさ、色んなことを一緒にしたいねんか。バスケの試合もまた見に来てほしい。遠藤たちも誘ってバーベキューもしようや。あと花火も!」
「あはは! なんだか忙しそうだ」
北野が笑う。その笑顔だけで、どうしようもなく、嬉しくなる。
「じゃあ、全部しよう。約束ね」
「おう。約束や!」
サヤが俺との約束を破ったあの夏から、約束は嫌いだった。
でも、こんなにも信じられる。北野のすべてを、信じている。
彼女と過ごす夏に、俺はいま、大きな奇跡を感じているんだ。