あの夏よりも、遠いところへ
キミと重ねる奇跡
 ◇◇

清見の手のひらは大きくて、わたしの手をすっぽりと包み込んだ。バスケ部の指だし、ピアニストの指だ。清見蓮は不思議な生き物だな。


ふいに、清見はぱしゃんとプールに入り、正面からわたしに向き直る。今度は両方の手をつないで。

目の前には、世界を明るく照らす朝日と、きらきら輝くプール、それから大好きな清見。

世界はこんなにも美しいのだと思った。この風景を切り取って、額に入れて、心の真ん中に飾っておきたいくらい。



「――俺な、夢があるねん」


息を吐くようにこぼしたその一言が、わたしの手のひらに落ちて弾けた。


「ふうん」

「北野は、ある? ……夢」


ないと言えばないし、あると言えばある。

それはどちらも嘘で本当だから、上手く答えられない。


「……ま、ええねんけど、別に」


清見は息をこぼして笑った。わたしは泣きそうだった。

彼の向こう側から昇る朝日がまぶしすぎて、彼の顔がよく見えない。


「……空を、泳ぎたいねん」

「え?」

「できれば、北野と、一緒に」


奇跡が落ちる。落ちて広がる。

大嫌いな世界を背に、彼が照れながら笑った。


それはありふれていて、奇跡みたいな笑顔。
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