あの夏よりも、遠いところへ
奇跡って、あると思う。たとえば出会うこと。好きだと思うこと。こうしていま、手をつないでいられること。
「楽譜を泳ぐオタマジャクシと違う。もっと自由な空で、おまえと一緒にこの世界を見下ろしたい。だってさあ、北野って『朝日』やん?」
「うん。……わたしも。わたしも、一緒に泳ぎたい」
隣にいたいと思えることだって、たぶん、奇跡でしょう?
「でもわたし、泳ぐのは苦手だから、溺れたらちゃんと助けてよ」
「おう、任しとけ! 溺れるときは、きっと一緒やで!」
それはなんと頼りないことか。
それでも屈託なく笑う清見がどうしようもなくいとおしくて、その胸めがけて飛び込んだ。
清見は絶対につかまえてくれる。だから大丈夫。こわくない。
小さな奇跡が重なった先に、清見がいた。清見の隣にいる、わたしがいた。
そしてきっと、これからも、いくつもの奇跡を重ねていく。
――17歳。
不器用に、ひたむきに伸ばした手が、キミにつながった。
まだ不透明で不確かなままのこともたくさんあるけれど、ゆっくり歩いていけばいいと思う。こんなふうに、ふたりで、手をつないで。
「……本当に、つかまえてくれた」
世界の片隅で、奇跡は起こった。たったいま、それは、キミの隣で。
【空を泳いでキミへ】fin.