あの夏よりも、遠いところへ
バスタオルとパジャマを抱えて階段を下りていくと、リビングからお父さんとお母さんの話し声が聞こえてきた。あまり大きくない声なのは、決まってわたしの悪口を言っているときだ。知ってる。
少しだけ開いたドアも、もしかしたらわざとなのかも。
「きょうも朝日、何も言わないで遅くに帰ってきたのよ」
「そうだな。最近は遅くなることが多いみたいだなあ」
「そうだな、じゃないわよ。どう思う? なにをしていたのかも言わないし、本当にどういうつもりなのかしら」
「まあ仕方ないだろう。中学2年なんて、難しい時期だよ」
お父さんの、明らかに興味の無さそうな声色が可笑しかった。
その理由は知っている。だってお父さんは、昔から雪ちゃんだけがかわいくて仕方ないんだもんね。
「そうかしらねえ。小雪ちゃんが中学生だったころは、もっと良い子だったわよ」
「小雪と朝日は違うんだ。朝日を小雪と一緒にするんじゃない」
……ほらね、やっぱり。
べつに、いまさら胸が痛んだりはしない。雪ちゃんとわたしを比べて、わたしのほうが優れていると言うひとなんて、たぶんこの世にいないだろうし。
そんなの、自分でもちゃんと分かってるんだよ。
「朝日はそろそろなんとかならないかしらねえ……」
なんとかなる、って、意味が分からない。
なんとかなるって、どういうふうになればいいの?