あの夏よりも、遠いところへ

家族で一番最後の湯船は、なんだかぬるくて気持ちよくない。

ぶくぶくとお湯の中に頭を沈める。ああ、このまま異世界に繋がればいいのに。突然女子中学生が風呂場から消えたとなると、世間は大騒ぎだろうな。


「……ぷはっ」


けれどやっぱりヒトは肺呼吸しか出来ないので、1分も経たないうちに出てしまった。

馬鹿馬鹿しい。毎晩お風呂でひとりこんなことをしているなんて知ったら、お母さんはまた「なんとかならないかしらね」なんて言うのかな。

あのひとたちはきっと、わたしが中学生だから悪いと思っているんだ。


中学2年生は特殊な時期だと、世間一般でも言われていることを知っている。

くだらない。『中二病』なんて言葉を生み出した誰かのせいで、世の中の中学2年生はみんないい迷惑だ。


だって、わたしには、分かる。

中学3年生になっても、高校生になっても、このもやもやは消えないってこと。

中学2年生だからこの理不尽な世界が嫌いだとか、そういうわけじゃないんだ。


「大嫌い、全部」


すべてを嫌わないと、わたしは自分を愛してあげられない。自分以外を否定していないと、わたしはわたしでいられない。

つぶやいた「大嫌い」はすぐに湯気と共に消えて、なんだか苛々した。


……雪ちゃんのピアノ、聴こえないな。防音加工ってすごいんだ。

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