あの夏よりも、遠いところへ
 ◇◇

雪ちゃんの通う私立高の制服はとてもお洒落で、このダサいセーラー服で隣に並ぶのはとても惨めだ。

彼女はわたしの通う公立中学には行っていない。いわゆるお受験をして、中学の頃からレベルの高い学校に通っていた。そこの制服は、こんなセーラー服には比べものにならないほど、かわいかったな。


「……あ、もうこんな時間! 電車の時間に間に合わないから、私、もう出るね。朝日ちゃんは?」

「わたしはまだ大丈夫。いってらっしゃい、雪ちゃん」

「うん、いってきます」


ゆるく巻いた髪をふわりと弾ませながら笑った彼女の後ろ姿は、朝日の光を受けてきらきらと輝いて見えた。

朝日って名前、雪ちゃんのものだったらよかったのに。そしたらわたしが『小雪』? いや、小雪なんて繊細でかわいらしい名前も、わたしには絶対に似合わないか。


「こら、朝日。いつまでぼうっとしてるの! 遅刻するわよ!」

「……はーい」


お母さんはきょうも通常運転だ。うるさいな。そんなに雪ちゃんがかわいいなら、もうわたしになんて構わなければいいのに。


「いってきまーす」


誰も送り出してくれない玄関先で、誰にも聞こえないように小さくつぶやいた。

我ながら偉いな。だって、色々と思うことはありながらも、こうしてちゃんと学校に向かおうとしてるんだもん。
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