あの夏よりも、遠いところへ
「……待って、蓮!」
彼女の高い声が俺を捕まえる。もう呼び捨てかよ。初対面なのに。
「なあ、また来てくれる? 今度はもっと時間あるときに」
「……うん、分かった」
「ほんまに? 約束やで」
「おう、約束や」
「私、サヤっていうねん。よろしくね、蓮」
その言葉を背中に聞きながら、転がるように坂を走り抜けた。
太陽が高い。大阪の夏はどうしてこうも暑いんだよ。
……いや、きょうが特別暑いのは、たぶん夏のせいだけじゃない。
「――レン、どこまでボールとりに行っとんねん!」
公園に戻ると、仲間たちが声を荒げて迎えてくれた。そりゃそうだ。ボールが無けりゃバスケはできねえもんな。
「……って、顔真っ赤やんけ! 熱中症か!?」
「うわ、ほんまや! 水飲め、水!」
どうりで顔が熱いと思っていた。走って風を受けてきたのに、なんだよ、これ。
公園の水道で水をかぶってみたけれど、やっぱりまだ顔は熱いままで。
「うお、それめっちゃ気持ちよさそう!」
「冷てえっ!」
仲間たちは俺に水を飲ませるのも忘れ、たちまち水遊びが始まったけれど、俺はなぜかあまり積極的に参加できなかった。
おかしいな。いつもならこの中心で騒いでいるはずなのに。
……おかしい。まだ、サヤの指の感触が、左の頬に残っているなんて。