あの夏よりも、遠いところへ

「好きなんでしょ?」


ああ、ダメだ。止まらない。


「陽斗のこと、好きなんでしょ?」

「朝日ちゃ……」

「言えばいいじゃん。引っ越しちゃうんだよ? 大阪だよ? 遠いんだよ? 言わなくていいの?」


雪ちゃんの左目から、ぽろりと涙がこぼれた。頬を伝うそれはとてもきれいで、無性に悔しかった。

泣くほど好きなのに、馬鹿じゃん。雪ちゃんは馬鹿だ。


「……いいの。だって、立川くんのこと困らせちゃうだけだよ」

「なにそれ。馬鹿みたい。馬鹿だよ、ばーか!」


わたしがいまどんな思いかも知らないくせに。

でも、馬鹿はわたしも一緒だ。自分だって陽斗のこと好きなくせに、どうして熱くなっているんだろう。


「じゃあ勝手にすれば!」

「朝日ちゃん、どこ行くのっ」

「陽斗にお別れしてくるんだよ。わたしは臆病者じゃないから!」


むかついたから、陽斗が雪ちゃんを好きだってことは、絶対に教えてあげない。


そういえばはじめてだ、雪ちゃんに暴言に吐くの。

部屋着で飛び出した夜空の下は思ったよりも寒くて、ちょっとだけ冷静になってしまった。だけど後戻りするわけにはいかない。そんなのかっこ悪くって、雪ちゃんに会えないもん。
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