あの夏よりも、遠いところへ
涙が出た。雪ちゃんの前では流れなかった涙が、こんなにも簡単に。
「北野さんと喧嘩でもしたの?」
「だって雪ちゃん、馬鹿だもん。むかつくっ」
「もしかして姉妹喧嘩に巻き込まれたの、おれ?」
そうだよ。まったく違うわたしたち姉妹が、はじめて同じものを好きになったんだから。
そもそもこのくだらない喧嘩は、陽斗のせいだ。
「……お父さんの転勤が決まって、引っ越すことになったの。大阪だよ」
「そっか。遠いじゃん」
「雪ちゃんも一緒に行くんだよ。この夏休み中に引っ越すから、2学期にはもう、会えないんだよ」
「……そっか、急だな」
どうして陽斗も、雪ちゃんと同じ顔をするんだよ。
淋しそうに笑うくせに、どうしてなにも言わないんだよ。
「……雪ちゃんは、空じゃないよ」
「え?」
「触れられるよ。陽斗の傍にいなくたって、離れたって、大丈夫だよ。大丈夫なんだよ……!」
恋愛って面倒くさい。
好きなら好きって言えばいいのに、みんなして遠回りしちゃってさ。
……それはわたしも同じか。
でも、だって、わたしの入る隙なんて、どこにも無いじゃん。言えないよ、好きだなんて。振られるのこわいもん。