あの夏よりも、遠いところへ

涙が出た。雪ちゃんの前では流れなかった涙が、こんなにも簡単に。


「北野さんと喧嘩でもしたの?」

「だって雪ちゃん、馬鹿だもん。むかつくっ」

「もしかして姉妹喧嘩に巻き込まれたの、おれ?」


そうだよ。まったく違うわたしたち姉妹が、はじめて同じものを好きになったんだから。

そもそもこのくだらない喧嘩は、陽斗のせいだ。


「……お父さんの転勤が決まって、引っ越すことになったの。大阪だよ」

「そっか。遠いじゃん」

「雪ちゃんも一緒に行くんだよ。この夏休み中に引っ越すから、2学期にはもう、会えないんだよ」

「……そっか、急だな」


どうして陽斗も、雪ちゃんと同じ顔をするんだよ。

淋しそうに笑うくせに、どうしてなにも言わないんだよ。


「……雪ちゃんは、空じゃないよ」

「え?」

「触れられるよ。陽斗の傍にいなくたって、離れたって、大丈夫だよ。大丈夫なんだよ……!」


恋愛って面倒くさい。

好きなら好きって言えばいいのに、みんなして遠回りしちゃってさ。


……それはわたしも同じか。

でも、だって、わたしの入る隙なんて、どこにも無いじゃん。言えないよ、好きだなんて。振られるのこわいもん。
< 64 / 211 >

この作品をシェア

pagetop