あの夏よりも、遠いところへ

ザァと、強い風が通り抜けた。暗闇のなかで、たぶん陽斗は、やっぱり淋しそうに笑っていた。


「雪ちゃんのこと、好きでしょう……?」

「うん」


うん、だって。あっさり振られちゃった。まだ自分の気持ちを告げていないのに、最悪だ。

けど、いいや。言っちゃおう。陽斗も自分の気持ちに素直になってくれたんだもん。わたしも言わないと、ルール違反、でしょ。


「わたしは陽斗が好きだよ」

「……うん」

「もしかして知ってた?」

「だって朝日、分かりやすいもん」


なんだ、知ってたのかよ。陽斗もなかなか性格が悪い。

思わず笑っちゃったよ。振られてるのに、変なの。


「謝らないでよね。分かってたからいいんだ。そりゃ、雪ちゃんのほうがずっとかわいくて、素敵だもん」


自分で言っていて悲しくなる。涙声にはなっていないかな。


「朝日は、朝日みたいだな」

「……は?」

「真っ直ぐ世界を照らす、朝日みたいだ。名前負けしてないっしょ」


ずっと自分の名前が大嫌いだった。冗談みたいな、笑えない名前。

わたしが生まれた朝に朝日がきらきら輝いていたから付けたらしい。てきとうもいいところだ。

……だけど、陽斗が、そんなふうに言ってくれた。
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