あの夏よりも、遠いところへ
どこでも桜は桃色なんだなあと、あたりまえのことを思った記憶がある。
あれは、たぶん中学3年に上がったとき。大阪に引っ越してきて迎えるはじめての春だった。
クラスには溶け込めなかった。だってみんな関西弁なんだもん。当然だけどさ。
標準語を恥じてはいないけど、特に話す必要もないかなって。そんな感じで、あれから2年半。
わたしは今年も、たぶんここの空気に馴染めないままなんだろう。
「――めっちゃオモロイ名前してんな、自分」
新学年、新学期、いちばん最初のホームルーム。わりとまだみんな緊張している教室の真ん中で、後ろから声を掛けられた。
「……は?」
「北野朝日て、めっちゃオモロイやん。朝日は東から昇るもんやのに」
そこまで大きな声ではなかったかもしれない。その台詞はたぶん、わたしにしか聞こえていない。
けれど、カッと顔が熱くなった。
「俺、清見蓮ていうねん。去年は5組やってんけど、北野サンは?」
「2組だけど」
「へえ」
自分から訊いておいてその薄い反応はなんなんだ。
関西人ってのはすごい。まるで世界中がみんな友達かのように、最初から馴れ馴れしく話しかけてくるんだ。すごい。
歩くのは速いし、よくしゃべるし、噂には聞いていたけど、強烈だ。