あの夏よりも、遠いところへ

それにしても、はじめて他人に名前のことを言われた。

いままで「オモロイ名前」なんて言われたことなんてなくて、最近では、陽斗が言った通り、自分が気にしすぎていただけだったのかもしれないとさえ思っていたのに。


清見は、突然自分から話しかけてきたくせに、もう後ろでだんまりを決め込んでいる。

くそう。これじゃ、さっきの文句も言えやしないじゃん。

……まあ、いいか。こういうやつとは関わらないのが一番だし。


ああでも、席替えがあるまで、こいつとは前後の席なんだろうな。ていうか、それ以外にもたぶん、いや絶対、出席番号が絡んでくる行事では前後になるのか。

体育祭に文化祭、さらには学年集会や全校集会までも、全部。

北野っていう苗字が、また少し、好きではなくなった。



「――と、いうことで。みんなこれからよろしく! きょうは解散でええでー」


いつの間にか担任の話が終わっていた。

途端にがやがやとうるさくなる教室では、もういくつかのグループが出来上がっている。

女の子って面倒くさいな。なにをするにも複数人で一緒だなんて、気がおかしくなりそうだよ。


相手の様子をうかがいながら猫かぶりをしている女の子たちを横目に、いい感じによれよれになってきたスクールバッグを右肩に掛けた。

家まで自転車で15分。よし、急げばお昼のドラマに間に合うな。

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