あの夏よりも、遠いところへ
◇◇
ただいまあ、と玄関先で言うと、おかえりい、と高い声が返事をしてくれた。
「雪ちゃんだけ?」
「うん。お昼はチャーハンでいい?」
「うん、ありがと」
東京で暮らしていた一軒家に比べると、やっぱりマンションは狭いなあと思う。なにより、雪ちゃんの大切なグランドピアノが置けないことは、大きかった。
「お昼食べたら後片付けしておいてくれる?」
「いいよー。なんかあるの?」
「うん、ちょっとレッスンが入っちゃってね」
嬉しそうだなあ。ピアノ、本当に好きなんだ。
雪ちゃんはいま、音大に通っていて、好きなだけピアノを弾ける生活をしている。まだ1年生だけど、才能があるからって、先生たちからもかなり寵愛されているらしい。
「あ、それと、夕食は外で食べてくるからってお母さんに言っておいて」
「……陽斗?」
「えへへ、うん」
「どうせなら泊まってくればいいのに。陽斗はひとり暮らしなんだしさ」
陽斗はすごい。雪ちゃんが大阪の音大に行くって伝えたら、彼も同じ大学を受けたんだ。
2年半の遠距離恋愛を経て、ふたりはいまだ、仲良く付き合っている。
わたしも何度か彼と会ったけれど、なんだかとっても大人びちゃっていて、やっぱりわたしはふたりには追い付けないんだと痛感した。
ただいまあ、と玄関先で言うと、おかえりい、と高い声が返事をしてくれた。
「雪ちゃんだけ?」
「うん。お昼はチャーハンでいい?」
「うん、ありがと」
東京で暮らしていた一軒家に比べると、やっぱりマンションは狭いなあと思う。なにより、雪ちゃんの大切なグランドピアノが置けないことは、大きかった。
「お昼食べたら後片付けしておいてくれる?」
「いいよー。なんかあるの?」
「うん、ちょっとレッスンが入っちゃってね」
嬉しそうだなあ。ピアノ、本当に好きなんだ。
雪ちゃんはいま、音大に通っていて、好きなだけピアノを弾ける生活をしている。まだ1年生だけど、才能があるからって、先生たちからもかなり寵愛されているらしい。
「あ、それと、夕食は外で食べてくるからってお母さんに言っておいて」
「……陽斗?」
「えへへ、うん」
「どうせなら泊まってくればいいのに。陽斗はひとり暮らしなんだしさ」
陽斗はすごい。雪ちゃんが大阪の音大に行くって伝えたら、彼も同じ大学を受けたんだ。
2年半の遠距離恋愛を経て、ふたりはいまだ、仲良く付き合っている。
わたしも何度か彼と会ったけれど、なんだかとっても大人びちゃっていて、やっぱりわたしはふたりには追い付けないんだと痛感した。